肺小葉は解剖学的に小葉間隔壁(interlobular septum)や胸膜によって取り囲まれた1cm四方程度の領域で, いわゆるMillerの二次小葉(secondary lobulus)にあたる.間質性肺炎の診断基準で単に小葉と記載されているのは多くの場合Millerの二次小葉である.
この領域の気管支は, 直径1-2mmほどの細気管支である.
小葉間隔壁は薄く疎な結合織よりなり, そこに肺静脈とリンパ管が走行する.
小葉のサイズは小葉間隔壁により決まるが, 隔壁は肺の部位により不完全であるため, サイズにはかなりのばらつきがある. (隔壁は胸膜直下ではよく発達している他, 上葉, 中葉, 舌区前縁では発達しているがそのほかの部位では不完全なところが多い.)
小葉隔壁の不完全な部位では, 肺静脈の枝が小葉の辺縁構造となる.
小葉中心構造は, 細気管支とそれに伴走する肺動脈およびそれらが走行する疎な結合織(気管支血管束bronchovascularbundle)からなる.
細葉(acinus)は大まかに一つの終末細気管支以下に付属するひとまとまりを表す概念で, 境界を具体的に指摘することはできない. 小葉(Millerの二次小葉)は細葉が複数個含まれており, 小葉には複数個の小葉(一次小葉=細葉)中心部が存在する.
肺動脈:右心室→肺門から肺に入る→気管支に沿って走行→枝分かれし細気管支, 終末細気管支, 呼吸細気管支に沿って走行し→肺胞管, 肺胞嚢の肺胞壁毛細血管を形成→肺小葉間結合組織内静脈→肺静脈→肺門から出て→左心房へ
肺動脈の分岐走行は気道の分岐走行と一致し, 換気/血流均衡という生理機能の維持を行う。
肺静脈は気道とは並行しない。肺小葉間結合組織中を走行し多くの肺ユニットから血液を受けて左心房に還流する。
肺ユニット:肺の機能単位で解剖学的肺胞よりは大きく,O2分圧とCO2分圧がそれぞれ同一となる。各ユニットは5000の肺胞と250の肺胞道から構成される。健常成人の肺ユニットは約6万
肺動静脈はともに血管壁が薄く弾力性に富む。
肺毛細血管
肺毛細血管, 小動静脈だけが肺胞を介して外気に接しており肺胞圧(大気圧に等しい)の影響を受け肺胞血管と呼ばれる。それ以外の血管は結合組織と直接に接合しておらず肺外血管と呼ばれ胸腔内圧の影響を受ける。胸腔内圧は肺胞圧より低い(-3.7mmHg)
肺は解剖学的に肺胞外血管や貫通血管の周囲を包むような構造で気管支は水分(肺水腫)や空気(肺気腫)によって容易に分離されるようになっている。
気管支動脈
胸部大動脈, 肋間動脈から分岐→気管・気管支に沿い→小葉間結合織内を通り→胸膜下に達する
1.小葉間結合織と気管支壁内に毛細血管を送る→小葉間に集まり気管支静脈となり→肺門→奇静脈と下大静脈に注ぐ
2.気管支に沿った枝がさらに小葉内に進入し細気管支, 終末細気管支壁に毛細血管を送る→小葉内に入った末梢血管の一部の血液は肺静脈に注ぐ
肺小葉は弾性結合組織に囲まれ各々1本の細動脈, 細静脈, リンパ管, 1本の終末気管支からの分枝が存在する。小葉間結合織内を肺静脈, 気管支動静脈, リンパ管が走っている。
壁に軟骨をもたない細気管支は小葉内で分岐を繰り返し直径1mmより次第に細くなり終末細気管支となる。1本の細気管支より4-6本の終末細気管支がでている。
終末細気管支は, 通常2回2本の呼吸細気管支に分枝する。呼吸細気管支は数本の肺胞管に移行し, ここに2-5個の肺胞嚢が開口する。
肺胞嚢は外側にカップ状にふくらんだ小さな袋(=肺胞alveolus, 複 alveoli)が2個以上集まって構成される。肺胞は呼吸細気管支, 肺胞管, 肺胞嚢の壁に存在する。呼吸細気管支ではとび石状に、それ以外は密にならぶ。
肺には約3億個の肺胞が存在する。肺胞の表面積は皮膚表面積の30-40倍(テニスコートの半分)になり, ガス交換を行う。
細気管支上皮は最初単層円柱線毛上皮で次第に単層立方線毛上皮となる。杯細胞も減少してついに欠如する。この部分では腺毛をもつ腺毛細胞と腺毛のないクララ細胞と刷子細胞brush cellがある。
クララ細胞Clara cellは腺毛を欠き円柱状で腺毛細胞より丈が高くまるいあたまを出している。細胞質には滑面小胞体がきわめてよく発達している。肝細胞様の解毒作用やsurfactant分泌機能があると考えられている。刷子細胞の機能は不明。
肺胞壁の構造
網目状毛細血管網を肺胞上皮が覆っている。肺胞上皮にはI型肺胞上皮(扁平肺胞上皮)とII型肺胞上皮(大肺胞上皮)の2種類がある
両肺の肺胞数は約3-5億個, 個々の肺胞の径は300μm, 総面積は機能的残気量(=呼気終末時における排気量)レベルにおいて約70㎡である。
肺胞壁には肺動脈の終末として, ガス交換に携わる毛細血管網が存在する。肺胞表面は必ず肺胞上皮に被覆されており, 毛細血管表面では上皮細胞質がきわめて薄くなっている。上皮と毛細血管内皮の間には基底膜が存在し, 血液と肺胞気を境しガス交換をする, この三層構造の隔膜を血液空気関門blood-air barrierと呼ぶ。平均1.5μmの非常に短い肺胞気と赤血球の距離は拡散によるガス交換が迅速, 効率的に行われるのに適している。
Ⅰ型肺胞上皮は, 比較的小型の核と核周部をもつ。核以外の部分では細胞質がきわめて薄くなり大きく広がっていてガス交換に関与する。細胞小器官は乏しい。
Ⅱ型肺胞上皮は, 丈の高い大型細胞で分泌細胞とも呼ばれる。光顕では細胞質は明るくみえる。細胞小器官は中等度に発達し, 核上部に特徴的な層板小体をもつ。小体はズダン染色, PAS染色陽性でリン脂質, 蛋白, 糖を含む。層板小体は開口分泌により肺胞内へ分泌され肺胞表面に広がり脂質の薄膜となって表面張力を低下させる界面活性剤(サーファクタントsurfactant)として働く。サーファクタントの働きで肺は表面張力による収縮をまぬがれ, O2が肺胞表面によくゆきわたるようになる。
Introduction to Practical Pathology of Chest Disease
標準組織学各論 第3版 医学書院 pp184-199
バーン/レヴィ カラー基本生理学 西村書店pp255-295
Pathologic basis of disease 7th ed.